「都市」というシステム ― さいわいな部屋が語る『すみやかな気息』(日本語 ver.)

ちょっと新しいことに挑戦!

こんにちは!今回は、普段このブログで公開しているものとはちょっと違った記事になります。というか、正直に言うと、こういうことをやるのは今回が本当に初めてだったりします。

Substackの「J-Music Advance Party」8月号を読んでくださった方ならご存じかもしれませんが、そこで少しお話しした通り、記事執筆時点でのさいわいな部屋の最新アルバム『すみやかな気息』のリリースに先駆けて、ドラマーの宇都宮海さんとお話しするという、とてもありがたい機会に恵まれました。最初にバンドへ連絡したときは、ほんの一言二言でもお話を聞けたら、くらいの気持ちだったのですが、実際に返ってきたものは自分が想像していた以上のもので、これからもずっと感謝し続けるだろうなと思えるような経験になりました。

その短いやり取りの中で、ありがたいことに、アルバムについて、そしてバンドそのものについて、自分が気になっていたいくつかの質問にもメンバーのみなさんが丁寧に答えてくださいました。当初は、その回答をAdvance Partyでさいわいな部屋を紹介する際の参考にさせていただくつもりでした。

でも、実際に回答をいただいてみると、これを自分だけのところに留めて、みなさんにも共有しないのはあまりにももったいないな、と。

すでにさいわいな部屋のファンで、もっとバンドのことを知りたいと思っている方にはもちろんですが、それだけではなく、まだ彼らの音楽を知らない方にも、これをきっかけに聴いてもらえたら嬉しい。自分自身、さいわいな部屋の音楽を一人でも多くの人に知ってもらうために、できることをしたいと思ったんです。

そんなわけで、宇都宮さんに「いただいた回答をブログでも公開していいですか?」とお願いしてみたところ、ありがたいことに快くOKをいただきました。

決してものすごく長いインタビューというわけではなくて、そもそも自分でもこれを「インタビュー」と呼んでいいのかちょっと迷っているくらいなんですが(笑)、それでも、さいわいな部屋のみなさんが話してくださったことを、みなさんにも楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。

というわけで、前置きはこのくらいにして――

さいわいな部屋とのお話を、ぜひお楽しみください!

『すみやかな気息』について

前作の1stアルバム『すこやかな寝台』から1年半ぶりとなる、新作フルアルバムです。特別に書き留めてしまえばかえって取りこぼされてしまう、整頓されていない個人の余白や脈絡のない行動、そんな名もない営みが集まり形成された大きな集合は、ひとりでに潮流や気配を作り出し、また個人へと影響を与えます。このような循環するシステムとしての「都市」を本作のコンセプトとして据え、日常に潜むささやかな不穏さを、楽曲ごとに異なる角度から描いています。都市ど真ん中の喧騒や忙しなさに組み込まれた、人や光の呼吸を感じられるタッチを、意識して織り込んでいます。かなりのボリュームを持った作品になりましたので、じっくりと腰を据えて一曲ずつ味わいを確かめながらお聴きいただけますと幸いです。


Leap:まずアルバムについてです。『すみやかな気息』を制作するにあたって、何かテーマやコンセプトのようなものはあったのでしょうか? 個人的な話になりますが、『すこやかな寝台』を聴いたとき、自分は「久しぶりに故郷へ帰ってきたような感覚」を覚えました。どこか安心感があって、とても居心地のいい作品だと感じています。今回のアルバムでは、リスナーに何か特定の感情や景色を思い浮かべてもらいたい、というようなイメージはありますか?

(Gt.Vo.みさ) 前作の都市郊外的な雰囲気と対比し、大きく「都市」というテーマで制作しました。そこで営まれる個人の行動や労働、それらが及ぼす相互作用のようなものを描いています。

個人的に解釈した「都市」というものを、それを形作る人のありかたや情報の回り方といった視点から歌詞に反映しています。単に記号的な都市のイメージを彷彿とさせる目的よりも、そこにある労働や人々、その相互作用など、その仕組みやある種暮らしに思いを馳せる過程を重視して書いたので、何かを読み取ろうとするよりも、聴く人もそれぞれ個人的な視点のまま何かしらを感じていただけたら嬉しいです。


Leap:また音楽的な面でも、最近Xで公開されていた試聴を聴いていて感じたのですが、新作は前作よりも全体的にテンポの速い楽曲が多い印象を受けました。自分はさいわいな部屋の、特にギターとドラムを中心としたメロディの美しさが本当に好きなのですが、『すみやかな気息』では楽器アレンジやサウンド面で何か新しい挑戦もされているのでしょうか?

(Gt.Vo.みさ) 今作では全体の統一感よりは、曲ごとの個性を際立たせるような音作りを意識しました。「インターライン」ではセミアコであえてダマっぽいギターを意識してみています。「石」では、これまでにない重めの歪んだギターサウンドやダブリングでハードな印象を与えるようにしたりしています。

(Dr.Kai Utsunomiya) ドラムについて、このバンドでは極力ドラムフレーズはシンプルに、主張しすぎないアプローチを取ろうと考えて制作しています。ですが、楽曲の個性を際立たせてバリエーションを持たせるために、前作と比べると込み入ったリズムパターンが増えているかなとは思います。確かに前作よりも曲のテンポが早いものが増えた印象はありますが、今のところ意識的に変えたつもりはありませんでした。しかし今作で「都市」というモチーフを描く際に、テンポの速い印象が結果的にプラスに作用している気はしています。むしろ今後新たに制作をする時に、今までに無い早いテンポ・新しい構成を前提として曲作りを進めていきたいなと、個人的には考えています。

(Ba. Masaya Fujimoto) 今作では前作と比べるとより3ピースにおけるベースという役割のポテンシャルを活かそうという思いを込めながら制作を進めてきました。それがより緩急を際立たせ、新たな印象を抱かせる要因の一つになっているのかなと思います。サウンド面では基本は3者のバランスを保ちつつも「誘導」では新たにオクターブエフェクトを採用していたりと密かに遊びを取り入れた作品になりました。


Leap:そして、バンドについてもぜひ少し教えていただけたら嬉しいです。さいわいな部屋はどのような経緯で結成されたのでしょうか?

(Dr.Kai Utsunomiya) 1年半ほど前に、元々私のソロプロジェクトという形でみささんに歌・ギター入れをお手伝いいただいていたことがあります。数曲一緒に作らせてもらったのですが、演奏力は言わずもがな、フレージングのセンスにも非凡なものを感じていました。こちらのソロプロジェクトは、思いついたDEMOをすぐさま形にしてどんどんリリースする方針だったので、質より量で勝負のインスタントな側面が強かったです。みささんのスキルとセンスをこの形で消費してしまうのは勿体無いと感じたため、ぜひバンドという形で新しく進めてみないかということで打診しました。

私はそのとき既にバンドをかなりの数抜けたり組んだりしてきていたので、もうこれ以上新規バンドは増やさないぞと考えてはいたのですが、泣きの一回という形で組ませてもらうことになりました。

ベースを誰にするかというところですが、みささんのスキルが卓越しているかつ私自身かなりプレーヤーのスキル面を重視するタイプなので、技術的に妥協のない人選にしたいなと僭越ながら考えていました。最初に思い当たったのが大学時代ジャズ研の先輩であったまさやさんで、正直あまりこのようなバンドで演奏しているイメージがなかったのでかなりダメもとで声をかけてみたところ、快く引き受けてくれました。1stアルバムの制作でもその圧倒的なベーススキルの片鱗が垣間見得ています。ただ、まだ彼の本領を完全に発揮できるような曲の土台作りをできていない気がしているため、これからさらにメンバーの持ち味を活かせるようなアイデア出しを進めていき、さらに「バンドらしい」制作ができている状態に持っていきたいと考えています。


Leap:また、音楽的なルーツや影響を受けたアーティストについてもお聞きしたいです。自分は、さいわいな部屋の音楽を聴いているとAmerican Footballを少し思い出す瞬間があるのですが、実際に影響を受けていたりするのでしょうか?もし他にも現在のサウンドに繋がっているバンドやアーティストがいれば、ぜひ教えていただけたら嬉しいです。

(Gt.Vo.みさ) ASIAN KUNG-FU GENERATIONとスピッツの影響は常にあります。またthe Formatが一番好きで、メロディやリフなどにキャッチーさを重要視する点としてバンド活動に限らず影響を受けていると思います。

(Kai Utsunomiya)People In The BoxやChouchou merged syrups.など残響系のアーティストが好きで、制作においてリファレンスとしています。このバンドのアウトプットとしてはメンバー二人の異なる音楽的趣向と交わることでポストロックともオルタナとも言えない周辺的なジャンルを漂う結果となっており、それはある程度狙い通りであるとも言えます。

また一方、私個人としてはmidwest emoがとても好きで、ルーツとしてAmerican FootballやTTNG、ラテンアメリカやロシア、東南アジアのemoシーンからの影響をかなり受けています。メンバー二人のルーツとしては特にそのあたりのジャンルから大きな影響を受けている訳ではなさそうなものの、もらうアウトプットには近しいニュアンスが感じ取れることも多く、私主導で作る曲についてはそこを活かして制作している場合も多いかと思います。

(Ba. Masaya Fujimoto)前述の結成経緯にもある通り、自分は近年ジャズを中心とした活動をしていたため、制作活動を行う中で特定のロックバンドを意識していることはあまりなかったです。ただ、以前よく聴いていたRushからは無意識的に影響を受けている気がしますし、他ジャンルのアーティストで挙げるならば、今作はPaul JacksonやRocco Palladino、Thundercatなどからヒントを得ています。


Leap:(最後に)さいわいな部屋の音楽をご自身ではどのように表現されますか?特定のジャンルに近いという感覚があるのか、それともジャンルにとらわれない音楽だと考えているのか、そのあたりのお話もぜひ伺ってみたいです。

(Gt.Vo.みさ) 私たちの音楽は、特定のジャンルにとらわれないものだと考えています。メンバーそれぞれが異なるルーツを持っていること自体が、私たちの大きな強みです。楽曲制作の際も、あえて特定のジャンルに寄せることはしません。全員が独自の解釈でアレンジを重ねるため、時には一つのジャンルが濃く現れることも、融合することもあります。その過程で生まれる偶然性も強みの一つだと思います。

(Dr.Kai Utsunomiya) 同上で、特定のジャンルに当てはめた制作はしていません。盛り上がっているオルタナティブロックシーンの延長として語られやすい部分もあるかもしれませんが、とにかくバラエティに富んだ解釈で幅広いアプローチを試みていきたいと考えているので、スタンスとしてはポストロック的なバンドであると言いたいかもしれません。

(Ba. Masaya Fujimoto)自分もジャンルに関しては「結果」として後からラベリングされるものであって、制作においてはそれを意識することはありません。ただし、リスナーの皆さんがそれぞれ抱く「解釈」はどれも間違いではないと思うので、その解釈の余地を是非楽しんでいただければと思います。


今後も、こういうことを他のバンドやアーティストの方々とまたできたらいいなと思っています。何より、このブログでアーティストについて書くとき、自分の勝手な推測や憶測だけで語るのではなく、できる限り本人たちが思い描いているものや、その音楽に込めた考えを反映した内容にしたいと思っているからです。

それと同時に、こういった形で直接お話を聞くことも、まだ彼らのことを知らない新しいリスナーにバンドやアーティストを紹介するための、また一つの方法になるんじゃないかなとも思っています。そもそも、自分がこうして音楽について書き続けている大きな理由の一つが、それだったりするので。

ただ、改めて自分がした質問を振り返ってみると、ところどころ少し誘導的すぎたかもしれないな、とも思っています。バンドのみなさんが変なふうに感じていなければいいのですが……。こういうことは普段やっていないので、もしまた同じような機会に恵まれたら、そのあたりは自分自身もっと意識して、改善していきたいところですね。

そして、まさにその話なんですが、もしまたこういった機会を作ることができたら、今回のような「会話」をこのブログで読んでみたいか、ぜひみなさんの意見も聞かせてください!

最後に、まだ聴いていないという方は、ぜひさいわいな部屋の最新アルバム『すみやかな気息』をチェックしてみてください!そして、バンドを応援したいという方は、ぜひCDなどのフィジカル版を手に取ることも検討してみてください。BASEBandcampから海外発送にも対応しています。Bandcampを利用する場合は、Bandcamp Fridayに購入すると、購入代金がすべて直接バンドに還元されるということも、ぜひ覚えておいてください!

Happy Listening!

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